実は私、ジ・アトラクションズを従えたコステロのライブを聴いたのは今回が初めてでした。というのも、私が松江から東京にやってきた1985年あたりは、コステロは Gooobye Cruel World から King of America へドラスティックに転換しつつあった頃で、初めて行った来日ライブ(サンプラザ)は生ギター一本で T-Bone Burnett と共演という形式だったし、1991年の来日時(日本武道館、一曲めが Accidents Will Happen だったが、マイクから火花が出てコステロが一度退場するというハプニングがあった)も、バックはアトラクションズではありませんでした。自分のコステロ経験自体も Punch the Clock 以降のことなので、This Year's Model や Get Happy! などで聴けるアトラクションズのコミカルで勢いのある演奏がようやく生で聴けるんだ、という期待感を持って会場に向かったのでした。
しかし何といっても今回圧倒されたのはコステロの声です。独特の卓越したメロディーラインをより際立たせながらも親しみを覚えずにはいられない絶叫気味のボーカル。それがツヤを加えて、会場を包み込んでいく。Shipbuilding や The Other End of the Telescope などでは鳥肌が立つほどでした。Veronica や Oliver's Army なども、ステージ構成の妙も相まって生まれ変わったように響き、この声あってこそのコステロなのだということを改めて実感しました。
そんなわけで、13日にもう一度行くことにしました。(a little revised: Sep 12 1996)
9日のステージで圧倒されたコステロの声ですが、今日は少し複雑な気分になりました。というのも、今回は Oppotunity, Possession, Riot Act といった比較的昔の曲が耳に残ったのですが、これらの曲が卓越したボーカリストとしてのコステロの間尺に合わなくなっている感じを受けたからです。All This Useless Beauty に収録されているような最近の曲のほうがしっくりきます。これからコステロはあの声を存分に発揮できる曲をたくさん書くことになるのでしょう。で、自分はというと、かつての何てことのないポップソングのように聴かせてしまう(けれども病みつきになる)あの細めの声が好きだったりします。
東京での最終公演だというのに、アンコールは一回しかありませんでした。コステロも名残り惜しかったのか、レスポールをアンプの前に置いてフィードバックを鳴らしたまま去っていきました。(Sep 13, 1996)