京極夏彦『陰摩羅鬼の瑕』

(2003-08-13)

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あの「夏」からちょうど1年後の夏、小説家関口は探偵榎木津のお供として、白樺湖畔の壮大な洋館に招かれたが、そこは「鳥の城」と呼ばれ、当主の新婦が殺されるという……(以下ネタバレ注意)。

探偵小説はなぜ「殺人」を特別なものとして扱うのか、という問いが出てくる。この世にすでにいない被害者に代わり、誰が、どうやって、なぜ殺したのかを、痕跡さがしと緻密な推理で追及していく探偵が登場する小説形式は、近代という「大量死」の時代にあって、「自己の死の特権化の夢想」を満たすものとして成立している、というのが笠井潔の論であり、[笠井潔『哲学者の密室』(https://amzn.to/2WZU7qp)や中井英夫『虚無への供物』は、そのことを暴くために書かれた探偵小説だった。

京極夏彦は、そもそも「殺人」とは、「死」とはこういうことだ、という「世間」の常識からズレた読書空間のなかで生まれ育った特異なキャラクターを登場させることで、現代において探偵小説はなぜ「殺人」を中心に書かれ、またそれが好んで読まれるのか、という問題に、別の角度から答え、また探偵小説をすくいあげようとしているように思う。その、探偵小説がわからない、儒教の家族倫理を奉じる人物が、孤立した読書空間のなかでとんでもない勘違いをしてしまう、というのがとくに示唆的だ。(つづく?)

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