Hybrids

(2005-07-27)

Robert J. Sawyer, Hybrids

ロバート・J・ソウヤーの「ネアンデルタール・パララックス」3部作の完結編、Hybrids を、10月の邦訳刊行が待ちきれずに原書を入手して読みはじめた。

この作品、古生物学・形質人類学や量子力学などの知見を駆使したSF要素の面白さもさることながら、法・道徳・宗教的観念の自明性を鋭くえぐる視点からも興味深く読むことができる。

「人は犯罪を思いとどまることができるのか、またそれはなぜか?」、「罪はどうしたら償うことができるのか?」といった疑問に対して、人間社会 (というよりキリスト教) が用意している答えの脆弱さや矛盾を、平行宇宙のネアンデルタール人社会のなかで発達してきた別様の答え・解決策 (『1984年』的と言うべきか) との対比を通して浮き彫りにしている。双方の登場人物の対話や葛藤に強く引きこまれる。

この完結編では、脳内現象としての宗教体験を研究している脳科学者が、宗教を持たないネアンデルタール人に興味をもつ、という話が出てくるようだ。Persingerという実在の脳科学者の名前も出てくる。

ちなみに、ニューバーグ/ダギリ/ローズ『脳はいかにして〈神〉を見るか』 では、ネアンデルタール人の埋葬遺跡に触れているが、ソウヤーのこの作品群 (もちろんフィクションだけれども) では、それが「来世」などの宗教的観念を彼らが持っていたことの証拠とする見方が否定されている。

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